猫のユリ中毒
犬や猫が中毒を起こす原因となるものはたくさんあります。食べ物、薬品、化学物質、植物、昆虫など。身近にあるものでよく知られているのはタマネギ中毒ですが、植物のユリが非常に有毒であるということはあまり知られていないと思います。実は獣医である私も4~5年前までユリが中毒の原因になることを知らず、ユリ中毒のネコちゃんを助けてあげられなかったという辛い思い出があります。
ユリ中毒というのは本当にびっくりするくらい急速に乏尿性の腎不全を引き起こします。とても怖いです。尿が作れなくなるので、点滴などの一般的な治療では太刀打ちできません。早期に透析をすることでなんとか救命の可能性が望めるというのが現状です。しかしほとんどの動物病院には透析器がないというのも現状です。
そこで私は苦い経験をもとに、いろいろと模索し、腹膜透析を治療に取り入れることにしました。比較的簡単な医療器具と動物自身の体を使って、透析器なしで透析を行うという治療です。早速必要な器具やチューブ類を買い揃え、手技を勉強し、いつでも対応できるようにと準備を整えました。この方法を使って、急性の乏尿性腎不全の3症例を救命することができました。そのうち2例はネコのユリ中毒でした。ネコのユリ中毒は身近で知らないうちに起こりうるものなんだなあと痛感しています。
ユリの毒性については、犬より猫に対して著しいようです。ユリは香りもよく、見た目も豪華で、花束などによく入っていますよね。特にこれからはユリの季節なので、お家の中にユリを飾られる方もあると思います。でもネコちゃんを飼っておられるお宅は絶対にユリを置かないでください。香りだけで中毒をおこしたネコちゃんもいます。またワンちゃんやネコちゃんを飼っておられるお宅にユリの入った花束を贈るのもやめましょう。
ユリだけに限らず、動物の中毒は人間の知識と注意で防ぐことができます。